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朝日新聞:社説「お酒と高齢者 静かに広がる依存症」(2009/1/5)


 大阪府に住むAさん(68)が両親を亡くしたあと、アルコール依存症で入院するまで5年もかからなかった。
 長年勤めた会社を定年退職し、同居の両親を相次いで見送った。2人の子どもは成人している。退屈しのぎに昼間もつい酒に手が伸びた。
 みるみる酒量が増えた。気がつくと駅前で寝ていたり、商店街で倒れていたり。妻がかかりつけ医に相談し、アルコール依存症と診断された。
 入院治療で酒は断ったはずなのに、退院後に「少しくらいなら」と、また酒を口にし、1ヶ月ほどで元の状態に戻ってしまった。再び入院して治療し、現在は断酒会に参加している。
 アルコール依存症になる高齢者が増えている。厚生労働省の調査によると、アルコール依存症の患者は推計で約80万人いる。 なかでも70歳代は同世代人口の3%を占めると見られ、割合では世代別のトップだ。全日本断酒連盟に入会する人も年々、高齢化している。 01年度に41%だった60歳以上の会員が、07年度には51%に達している。
 ここ数年で目立つのは、定年後の数年で急速に依存症が進行する例だ。
 「まじめに働いて定年を迎えた人が、定年後の生活設計を描けず、知らず知らずお酒にすがっている」。長年にわたってアルコール依存症の治療にあたってきた大阪市和泉市の新生会病院名誉院長、和気隆三さんは話す。
 依存症患者の増加は施設や在宅介護の現場にも深刻な影を落としている。
 飲酒のせいで食欲がわかず、ホームヘルパーの作った食事を食べようとしない。アルコール依存症が栄養失調や記憶障害、うつ病など、二次的な健康被害を引き起こしている。転倒して骨折する危険性も高い。
 ヘルパーにお酒を買ってくるよう強要してトラブルになるケースも発生している。関西アルコール関連問題学会がケアマネジャーとホームヘルパーら500人 あまりを対象に調査したところ、8割がサービス利用者の飲酒問題にぶつかり、3割がサービスの提供が困難になったと答えている。
 アルコール依存症は、お酒の量を自分ではコントロールできない病気である。「酒好き」や「大酒飲み」と放っておいてはいけない。きちんと治療を受けてお酒を断てば、十分に回復できる。なかでも高齢者は回復率は高い。
 ふだん高齢者と接しているヘルパーたちには、アルコール依存症について認識を深める研修が必要だ。
 また、介護を担う職員と地域の開業医、保健所、依存症専門病院などが連携して高齢者を支えるネットワークを日頃から築いておくと心強い。
 残された、かけがえのない日々。依存症を克服し、ひとりでも多くの高齢者が、ほんとうの自分を生きられるよう応援したい。



朝日新聞:天声人語(2009/12/23)


 不況風がつめたい師走の街で「せんべろ酒場」が人を集めているという。 千円でべろべろに酔える、を略したらしい。定義はないが、安くて、チェーン店でないのが条件のようだ。 らしき店の暖簾をくぐると、モツの煮込みが250円など、手頃な値段に頬がゆるむ▼手元の辞書を引くと、「べろべろ」は酔ってろれつが回らない状態をさす。 酔態の表現にも使い分けがあって、「ぐでんぐでん」は正体を無くした様子を言うそうだ。財布にやさしい「せんべろ」でも、酔い加減はやはり「ほろり」程度が賢明である ▼酒の功は限りないが、罪もまた多い。「百薬の長とはいへど、万(よろず)の病は酒よりこそ起これ」と古くに戒めたのは「徒然草」の兼好法師だった。 近年は、アルコール依存症の増加が深刻になっている▼「予備軍」を含めると440万人にのぼるという。自殺の背景になることも多く、もはや「飲んべえ」などと、のどかに呼べない人も少なくないようだ。 克服するには、しっかりした治療と支援が欠かせない ▼とはいえ厳しい年の瀬に、語らい、労をねぎらい合う一杯はうれしい。腹に下りて、胃の形が分かるほどにじわっと広がる熱燗など、何ものにも代え難い〈おでん酒酌むや肝胆相照らし〉誓子。 冬の巷の幸いである▼漢詩にちなんで酒のことを「忘憂」とも言う。しかし兼好法師は「酔っぱらいは昔の憂さを思い出して泣く」と手厳しかった。 冬至も過ぎて、忘年会はそろそろ最終盤だろうか。憂さに負けない笑顔の杯を、ほどほどを旨に楽しまれたい。(注:下線は当会)

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